独裁生徒会に抗う少女【文章のみ】
🕑 Added 2021-11-30 15:10:47 +0000 UTC
私立縄山学園は巨大な全寮制の学園だ、田舎の長い坂道の先にあり、入った生徒は半強制的に学園外の世界と離れた生活を送ることになる。
この学園は放任的かつあらゆる相対に寛容であった。
つまり自由であった。
何を着て来てもいい、授業に出なくても遅刻しても欠席しても咎められることはない。寮にももちろんルールはない、最初の学生達はなんて素晴らしい環境なんだとはしゃぎ回った。
しかし、あらゆる領域に自由は踏み込んできた、イジメ、窃盗、暴力。人権にまで踏み込んだ自由を学園は許し続けた。
そうして、あらゆる自由が入り乱れる縄山学園は誰もが周りを疑って一歩も動けぬ無法地帯、自由とはまるで逆の空間になっていた。
やがてその中から自分たちでルールを作ろうとする者たちが現れ始めた。彼ら彼女らは自分たちの仲間を集めて組織を作り、学園を統治しようと動き出す、そして時間と共にいくつかあったの組織は吸収あるいは淘汰されていき、学園は一つの組織に統治されることとなった。
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「みんな同じ顔しちゃって」
自分と目を合わさぬようそそくさとすれ違う生徒達に少女は今日も悪態を吐いた。
「工藤、指定の制服を着てこいと言ってるだろ」
二人の男が少女の進路を塞いだ。
「またお前らか、毎日毎日本当によくやるよ」
少女はやれやれと言った感じに脱力すると男の一人にまっすぐ目を向け毅然とした態度で答えた。
「私はお前らの言いなりにはならない」
「まだそれを言うか」
「それはこっちのセリフ」
「今日という今日は許さんぞ」
「こんな所で暴力沙汰?平和な学園が聞いて呆れる」
「平和のためにこそお前の様な不良者を野放しにしておくわけには行かないんだ」
言い切ると同時に掴みかかってきた男達を少女はするりと交わし、男の体制が戻らぬうちに振り向きざま強烈な蝋キックを太腿にお見舞いする「ぐわっ」と派手に転ぶ仲間に気を取られている隙にもう一人の男の腹には拳がめり込んでいた。
「口ほどにもない」
少女は蹲る男たちに吐き捨てると颯爽と走り去って行く。
縄山学園は行き過ぎた自由に混沌とした時代を終え平和が戻ったかに思えた、しかしそれは学園を統治する「生徒会」による独裁の始まりだった。生徒会は過去のあらゆる記録を消し、縄山学園は全てが自由だったという歴史を変えていった、そして髪型、服装、授業の出席、休み時間の過ごし方など、あらゆる自由を規制し学園は再び自由とは無縁の超管理体制になっていた。生徒会を除いて
学園を統治する側の生徒会はいわゆる法の届かぬ場所、生徒会は表向き模範的な生徒を演じつつ裏では欲望の限りを尽くしていた。強い規制で多くの人間から搾取した自由は生徒会の人間へと還元されていた。
そんな中ちらほらと学園の本来のルールに気づくものや、そもそも厳しいルールに適応できないものが現れ始めた、そういう者たちに生徒会は非常に厳しく、溢れものたちは必然的により集まり反体制グループとして生徒会の厳しい制裁から自分たちを守る集団を築いていった。
しかし、いくら徒党を組んでも学園を統べる生徒会と溢れもののグループでは規模が違いすぎる、管理体制反対派グループは発足してすぐ生徒会によって凄惨な嫌がらせを受け風前の灯となっていた。
そんな時に現れたのが工藤千鶴(くどうちづる)だった。整った幼い顔立ちにセミロングの茶髪、ピンクのTシャツに短パンというラフな格好、あどけなさの残るその姿は街ですれ違えば100人が100人とも美少女だと答えるだろう、しかし彼女は幼い見た目からは想像もつかない程の武術の達人だった、彼女が入ってからは生徒会も容易に手が出せなくなり、反対派グループは千鶴を中心とすることで何とか息を吹き返し少数精鋭で生徒会と敵対し続ける事ができていた。
「おはよっ」
千鶴は使われていない空き教室の扉をくぐった、中には女子生徒1人男子生徒2人が思い思いくつろいでおり、千鶴の挨拶にみなパラパラと言葉を返す。
皆千鶴と志を同じくする仲間達だ、今教室にいる3名と千鶴、まだ来ていないもう一人を入れた5人で反体制のグループは結成されている。少数と言うこともあり、特に名前もない集団だが、何かしようとしては生徒会の抱える鎮圧部隊と争っているため学園での知名度はそこそこ高かった。生徒の間では反乱軍なんて呼ばれたりもしている様だ。
「千鶴〜遅かったじゃん、また生徒会に絡まれてたの?」
「そう、もうやになっちゃうよー」
真っ先に千鶴に話しかけてきたのは同級生の雪だった、二人の談笑は生徒会の愚痴に始まり近日の出来事のこと、流行りの動画のことと様々に移ろっていく。
千鶴たちは、基本的にこの空き教室で過ごしていた、反体制グループだからといって四六時中体制を覆す作戦を考えているわけではなく、勉強したり遊びにいったり、基本的には普通の高校生として生活していた。今日もそんな一日……。
「ゆり、遅いな」
千鶴は、まだ来ていないもう一人のメンバーの名前を出した。ゆりは早起きで一番に来る事が多いため、少し遅れただけでもそれなりの違和感を感じさせた。
「確かに」
「ちょっと連絡してみる」
ポケットから取り出した千鶴のスマホの画面には、この学園の生徒なら誰でも知っている人物からメッセージが届いていた。
「(星崎?なんで?)」
星崎とはこの縄山学園のトップである生徒会長の名前だ、星崎は学園の全生徒の連絡先を知っているため、千鶴と連絡を取ることは容易なことだった。
「なにこれ」
メッセージを開いた千鶴は思わず声を上げていた、突然の声に驚いて注目した他のメンバーに見えるように千鶴はスマホを机の上に置いた。
「ゆり!?」
千鶴のスマホ画面には、連絡下さい、というメッセージと共に後ろ手に縛られたゆりの写真が表示されていた。
雪 「どうしよう……」
千鶴「とにかく今から連絡してみる」
千鶴はみんなが聞こえるようにスピーカーモードにすると、星崎に着信をかけた。静まり返った部屋を着信音が貫く。
「おはようございます」
やたら爽やかな声が携帯のスピーカーから響いた。
「どういうつもり?覚悟はできてるんでしょうね」
千鶴の声は怒りに震えていた。
「口には気をつけた方がいいですよ、貴方の大事なお友達のためにも」
「まさか、ゆりに何かしたの?」
「まだ、何もしてませんよ……まだ」
「ゆりに指一本でも触れたら、許さないから」
「はは、それは怖いですね」
「……何が目的」
縛られたゆりの姿が頭をよぎった、星崎は何も知らずに束縛された学園生活を送っている学生の中でも悪い噂が流れることもある、筋金入りの人物だ、機嫌を損ねさせればゆりに何をされるか分からない、千鶴は荒げていた声のトーンを少し落ち着かせる。
「工藤千鶴さん貴方と二人で話がしたいのです、今から生徒会室に来てもらえませんか?そこで貴方の身柄と引き換えにゆりさんをお返ししましょう」
「分かった今から行く、だから絶対ゆりに変なことしないで」
千鶴は言い切ると同時に通話を切った。
「星崎と話してくる」
男子A「まって下さい」
「何?まさか止めるつもりじゃないよね」
「違います、俺も連れてって下さい、あいつら本当にゆりを返してくれるか分からないじゃないですか、教室まで俺がゆりの護衛をします」
反体制派の男子勢は千鶴に武術を習っており、今や生徒会の鎮圧部隊とも互角に渡り合うことができる手練れだ。
「なるほど、分かった男子A一緒に来て、教室は男子Bに任せた」
千鶴は男子Aと早々と教室を後にした。
隣の校舎の3階、空き教室に囲まれやたら静かな廊下の突き当たりに生徒会室はある、星崎は護衛として二人の生徒を連れ千鶴達を待っていた。一人は屈強ないかにも護衛という感じだが、もう一人はとても千鶴の様な有段者と渡り合えるようには見えない痩けた女子生徒だった、右手にはハンドバッグがぶら下がっており、まるで帰宅途中の生徒を適当に連れてきたかのように、緊迫した状況に一人だけ浮いていた。
千鶴と男子Aと星崎達は5メートルほど距離を保って向き合った。
「待っていましたよ千鶴さん」
「ゆりを返して」
「分かっていますよ、でもその前に貴方を拘束させて頂きます」
星崎が合図するとハンドバッグを持った女子生徒が千鶴達に歩み寄って来た。思わず千鶴達は身構える、見た目で強さが測れないことは千鶴を見た者であれば誰もが実感していること、本人含め今更そこに油断はなかった。
男子生徒は警戒する千鶴と男子Aの目の前まで来ると右手に持っていたハンドバッグの中から縄の束を取り出してみせた。
「その縄で両手をを縛らせて頂きます」
「そこまでする必要ないでしょ、どこにも行かないわよ」
「いえいえ私は貴方を見くびりません、飲めないのならゆりさんをお返しする事はできませんよ」
「くっ……」
千鶴は心底悔しそうに星崎を睨みつけるが、ここでいくら言い合っても話は進まない、悪態を吐くと、両手を前に差し出した。
「はっ?……えっ…ちょっと……」
縄束を解いた女子生徒は千鶴の背後に回ると、差し出された両手をぐいっと後ろに持っていき捻り上げた。
「そんな簡易的な縛りにする筈がないでしょう」
「くそっ……」
人質を取られている以上下手なことはできない為千鶴はもじもじと身体を捩らせ細やかに抵抗するが、女子生徒はそんなことお構い無しに無言で千鶴に縄を巻き付けていく。
両腕を束ねると女生徒は胸の上下にも縄を4本づつ巻き付けさらに身体と腕の隙間にも縄を割り入れ絞り上げてきた。Tシャツ越しにぽっこりと膨らみが強調される。両手の自由を奪われたその姿は裸や下着とはまた違う妖艶さを放っていた。
「うぅ……」
「上出来です」
星崎は舐め回すように千鶴を観察すると満足したように頷いた、隣の護衛の男子生徒も何も言わずともその視線は千鶴の縛られた身体に釘付けになっている。
「それでは、約束通りゆりさんをお返ししましょう」
護衛の男子は生徒会室に入りゆりを連れて戻ってきた。ゆりは簡易的に後ろ手で縛られているものの、ぱっと見乱暴された様子はない。
「ゆりっ!」
「千鶴、ごめんなさい、私……」
「いいの、無事でよかった」
「では千鶴さんはこちらへ同時にゆりさんも開放します」
千鶴は男子A、そしてゆりとアイコンタクトを取ると、自分を拘束した女性とゆっくり星崎達の元へ向かった、それを見て星崎の護衛もゆりの縄を解き送り出す。
「それでは、千鶴さんをお借りします、なに手荒なことはしませんよ今日中には開放します」
それだけ言い残すと星崎達は千鶴を連れて生徒会室に消えていった。
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「窮屈だと思いますが我慢してください」
千鶴は星崎の腰掛ける肘掛けの付いた椅子と重厚感のある机の前にポツンと置かれたパイプ椅子に座らされていた。両腕はゆりを引き渡す際に縛られたまま、さらに椅子から立てない様にお腹に縄が巻きつき椅子と繋げられている。
「さて、話ですが」
「何を言っても無駄、私は貴方達には縛られないから」
「はははっ、もう縛られてるじゃないですか」
「くっ……」
千鶴は怒りに縄を軋ませるが、文字通り手も足も出ない。
「まあ話と言っても大したことではないのですが……」
星崎は立ち上がると三階から見下ろす校庭を眺めながら話し始めた、校庭には体育の授業を行う生徒達が溢れ息の合った動きで準備体操をしている。
「(チャンス、今のうちに縄抜けできれば)」
千鶴は星崎が視線を外した今のうちに自身を戒める縄を解いてしまおうと両腕に力を込めた。
ギチチ……ギチッ……
軽く両腕をもがかせるが背中で固まった両腕はピクリとも動かない、力を込める度縄が軋んだ音を立てているが星崎は気にしていない様なので、千鶴は星崎の話を無視して縄抜けに集中していく。
「っ……」
ギチッ……
両腕に力を込めても胸縄は緩む気配を見せず、逆手で背中の縄目を探ってみても縄のゴツゴツとした感触があるだけで、引っ張ったり掴めたりしそうな結び目は見つからない。
「(くそっ、キツいな……)」
厳重な縛りを解すため千鶴は少し強めに両腕に力を込めた。
「んっ……」
生徒会室に艶のある千鶴の呻き声が響いた、星崎がくるりと振り返り千鶴と目線を合わせる、千鶴はもがくのを止め少し罰が悪そうに視線をそらした。
「話は聞いていましたか?」
「………………」
「どうやら、囚われの身である自覚が足りない様ですね」
「………………」
「それなら、好きなだけ試してみてください」
「どういうこと?」
「その縄から抜け出してみて下さい、私は貴方が諦めるまで待ちましょう?」
「抜け出せたら帰らせてもらうから」
「構いませんよ、抜けられたら、ですが」
千鶴は身を捩らせ始めた。
「んっ……くっ……」
もう星崎に気づかれないかを心配する必要はない、千鶴はぐいぐいと力を込めて強引に縄抜けしようともがく
「んっ…む…………」
力を込める度にか細い呻き声が短く漏れた、縄はキシキシと軋んだ音を立てるが千鶴の両手は一向に動かない。
「凄い力ですね、本当に貴方なら抜け出してしまいそうだ」
「不可能だって思ってるくせに」
そんな事を言いながらも千鶴はもがく事を止めようとはしない。
その可愛い見た目からは想像もできない千鶴の強さに星崎率いる生徒会は散々計算を狂わされていた、それは千鶴本人も自覚する所であり、今回も余裕綽々の星崎の予想を裏切ってやろうと、千鶴はもがきまくる。
「くぅ……んん……」
歯を食いしばり二の腕を広げようと力を込め身を捩らせるが、二の腕ごと巻きつく胸縄は千鶴にめり込むばかりで緩む気配がない。
「くそっ……」
千鶴は力任せにもがくのを止めもう一度指先で背中の縄目を探ってみるが、やはり決定的な縄目を発見することはできない、ならばと千鶴は背中の縄をガリガリと爪で引っ掻いてみる。しかし当然その程度で縄目が緩むはずもなく、千鶴は「ダメだ」と言う様に軽く首を振った。
実際、決定的な縄目つまり縄の先端は千鶴の手の届かぬ所に結ばれている、それを悟った様に千鶴は指先を使って縄目を解くことを諦め、全身を捩らせてもがき始めた。
「くぅぅっ……」
身体に一層深く縄が食い込んでいく。
「んっ……くっ…ふっ……」
身体を逸らしたり窄めたり肩を回したり、体中にまとわりつく縄からなんとか抜け出そうとガッチリと固められた上半身を悶え続けた。
「はぁ…………んっ……」
時折縄の緩みを確認する様に動きを止め軽く縄を軋ませた、すぐに何も変わってないことが分かりまた身を捩りだす。
「んっ……くっ……」
千鶴はがむしゃらに身体を暴れさせつつも、全体的には胸縄を外す事に集中している様だった、身体を窄める様に捩らせ胸縄をずらそうとしていたり、二の腕にやたら力を入れていたり、肩をぐりぐりと動かしたり、胸縄を外そうとする様な動きが多くなってきた。
しかしどれだけ千鶴が力を込めても、その細身な身体をどれだけ捩らせ揉み捻っても、千鶴の胸を挟み込む縄はどこにもずれることはなく、緩む様子もなかった。
「んんっ……つぅ……」
それでも千鶴はもがく事をやめようとしない。とにかくもがき続けていればいつかは縄が緩んでくると信じて、ひたすら身を捩らせる。
「どうですかそろそろ、自分の立場が分かって頂けましたか?」
「むぅっ………………はぁ…はぁ……」
千鶴は星崎を一瞬見るが、すぐにその視線は体に巻きつく縄に落とされた。
「やれやれ、本当に貴方は諦めが悪いですね、まあ好きなだけ試していいと言ったのはこっちですからね、気の済むまで足掻いて下さい」
「うるさいっ」
千鶴は声を荒げていた、必死に縄抜けを試みるも未だ抜けられるイメージが湧かない、心の中に星崎の言った囚われの身である自覚が目覚め始めていた、そしてそれは自由に振る舞い続けていた千鶴にとって想像以上に恐ろしいものだった。
なんの抵抗もできない状態で、何をしてくるか分からない人間と密室で二人きり、縄抜けが難航する事でその事実がより鮮明に千鶴の脳裏を埋め尽くし始める。
だから千鶴は声を荒げた、悔しさをぶつける様に、諦めかける心を振るい立たせる様に。
「くぅぅっ……んぅぅ……」
何度でも身体を捻らせ、両腕を踏ん張らせ、懸命に縄を緩めようと試みる。
「んん……くそっ……ふっ……うぅ……」
苛立ち床を蹴った、力の入った上半身が震える。
「むっ……ん゙っ……」
しかし縄は解けない、背中で綺麗に組まされた両腕は千鶴がどれだけ必死にもがこうとも身体に食い込むばかりで一向に緩まない。それでも千鶴はもがき続けた
「はぁ…はぁ…はぁ…………んっ…くぅ……」
激しく暴れて上がった呼吸が整うのも待たずに千鶴はもがいた、胸を絞り出す上下の縄を少しでもずらそうと必死に身体をくねらせ、肩を動かす。
星崎は淡々とした表情で千鶴がもがく様子を見ていた、そろそろ千鶴にギブアップしてもらうため挑発をしなくなっただけだったが、千鶴にしてみればそれは恐怖を加速させより自由を求める気持ちを高めるだけだった。
「はぁ…はぁ………んんっ!……」
もうそれなりに時間が経っている、千鶴は懸命に身を捩り縄を軋ませ続けているがその表情には疲れと諦めが見え始めていた。
「くっ……ふっ……」
胸縄を外そうと身体をくねらせていた千鶴は、少し間を置きやけでも起こしたかの様に思い切り身体を捩らせ力を込めた。
「んぅぅゔ…………」
当然のようにその抵抗が虚しく終わる。千鶴は荒れた呼吸を整えると口を開いた。
「話ってなに?」
「おや、もういいのですか?」
「いいから話しなさいよ」
強気な返事を返しつつも千鶴の表情は明らかに怯えたものになっていた。どう頑張っても縄は解けない、その事実を嫌と言うほど実感した事により、千鶴は星崎という男がこれまでの何倍も恐ろしく見えるようになっていた。
「分かりました、でもその前に少し昔話をしましょう」
星崎はふっと力を抜き背もたれに身を預けた、千鶴に固定されていた視線が宙を向く。
「私には兄がいます、兄は今から3年前、この学園に秩序をもたらす為に奮闘した一人でした。やがて兄はこの生徒会を結成した、貴方も知っての通りこの学園は今我々生徒会が管理しています、兄はその初代生徒会長…………になるはずだった……」
星崎は静かに視線を千鶴に戻した
「しかし兄が当時付き合っていた女性が貴方のように秩序を乱す者にレイプされる事件が起きました、さらにリベンジポルノを脅され、兄は退学を余儀なくされたのです。
それ以来活発だった兄はほとんど部屋から出て来なくなりました。そして学園にはあなたの様な人達が今でも残り続けている。
だから私は生徒会長になりました、兄の無念を晴らすために、正しい人間が傷つくことのない学園を実現する為に」
星崎が黙り込み生徒会室を沈黙が駆け抜けた、遅れて体育の授業を受ける生徒たちの掛け声が遠くから聞こえてくる。
「ふざけないでよ」
縄を軋ませ、千鶴は語気を強めた。
「貴方のお兄さんが何であろうと、今傷ついてるのは私達でしょ」
「貴方達如きに傷ついたなどと言われたくありませんね」
「貴方のやってることはお兄さんを苦しめた人と同じだ」
星崎は両手で机を叩いて立ち上がった
「いい加減にしろ」
顔を上げた星崎のその表情に、いつも学園の生徒から支持を集める爽やかな印象は無く、怒り狂うでもない、とても冷たい印象だった。
「ひっ……」
押し殺していた千鶴の囚われとなった恐怖心が呼び起こされる。
星崎はそんな千鶴の目の前に移動し見下ろした。
「そうだ、きっと知らないからそんな事が言えるんだ」
「なにがよ」と言葉を返すこともできない千鶴の胸を星崎は鷲掴みにした。
「馬鹿は死ななきゃ分からないんだ」
「やっ、やめてよ!」
片胸を握りしめている星崎の手から逃れようと千鶴は身を捩るがもう一方の手で肩をガッチリと掴まれどうすることもできない。
「声をあげても無駄だよこの周辺に授業で使う教室はないからね」
星崎は両手で千鶴の胸をめちゃくちゃに揉みしだくと、Tシャツを取り去ろうと引っ張り始めた。
「やめて、くそっやめろよ」
千鶴は声を張り上げるも星崎は一切聞こえてないかのように千鶴のTシャツを一心不乱に引っ張った。しかしTシャツは手では簡単に破れない。
「くそっ、まあいいか」
星崎は悪態をつくと、さも当然の様に千鶴の下半身に手を伸ばす。
「ああぁ」
縄を軋ませ「やめてやめて」と同じ言葉を繰り返すしかない千鶴の両足を押さえ込み星崎は短パンを強引にずり下ろした、現れたシンプルな無地の下着も剥ぎ取ろうと手を伸ばす。
「やめてぇ」
千鶴はとっさに星崎の太腿を両足で強く押した、バランスを崩し背中かから倒れ込みそうになる星崎がとっさに身体を捻った先には生徒会長の重厚な机が迫っていた。
鈍い音がしたと思うと星崎は力なく倒れていた、額と鼻から血が滴っている。
千鶴は黙って星崎を見つめた。
「大丈夫?」
犯される恐怖は拭えないが数十秒が過ぎてもピクリとも動かず、血を流して横たわる星崎に千鶴は思わず声をかけるが、ぐったりしたまま全く起きる気配はない。
「これやばいかも、誰かいないの星崎が頭打って気絶しちゃったの」
大声で呼びかけるが外に人の気配はない。秒針が聞こえてきそうな静けさと、星崎の額から流れ続ける鮮血が緊急事態の空気をピリピリと増していく。
「抜け出さなきゃ」
千鶴は自分を戒める縄目を見つめ呟いた、さっきまで自分を犯そうとしていた男かどうかを気にしてる余裕はなかった。
「ふっ……ん゙っ……えっ……」
千鶴は縄を引きちぎろうとするかの様に必死に力を込めた、静まり返った生徒会室に縄の軋む音と絞り出すような呻き声が響く。
「んぅ…………うっ……くぅ……」
「くっ……ダメだ解けな…い……」
無我夢中で身を捩るが縄は相変わらず軋むばかりだった、しかしダメだと分かっていても、とにかく全力でもがき続けるしかない。
「んぅ……くっ……む……」
「はぁ…はぁ………」
散々もがいて疲労の蓄積した千鶴の身体はすぐに酸素を欲しがり、必死の抵抗に歯止めをかけてくる。胸に縄を食い込ませながら苦しそうに呼吸をする千鶴の表情には焦燥の影が滲んでいた。
「んっ……くぅう……」
肩を上下に動かして、身を捩り胸縄をずらそうともがいた、ズレなければ二の腕を広げようとギュッと力を込めてもう一度試みる、もちろん何度やっても結果は変わらない、それでも千鶴は懸命に縄から逃れようともがき続けた。
「むっ……ぅっ……」
ギチッ……ギチチ……
………………………………………………………………
「はぁ…はぁ………」
一頻りもがいた千鶴は全く緩もうとしない縄目に顔を顰めた。
「どうすればいいの?」
もがいたことで余計に食い込み身体を締め上げているようにも見える縄に視線を落とす。
「んぅ…いっ……………はぁ…」
再び身体を膨らませるように二の腕に力を込めるが、変わらぬ縄の感触に千鶴はため息をつく。
千鶴は星崎に視線をやった、頭からは未だ血が滴り続けており床にできた血溜まりはだいぶ大きくなっていた。
「とにかく血を止めなきゃヤバイかも」
千鶴は縄抜けを一旦諦め星崎の止血をしようと動き出した。
「やるしかないか……」
腰を椅子に縛られた状態で星崎の元まで進む為には這い進むしかない。千鶴は一度深呼吸すると大きく身体を揺らした、すぐに椅子は左に大きくバランスを崩しある程度傾いたところで片側で支えていた椅子の足が滑り派手に転倒する。
「うぅっ……」
全身を駆け抜ける痛みに千鶴は呻き声をあげて蹲るが、幸い脱臼などの大きな負傷はしていない、痛みが治るのを少し待つと身体をくねらせて星崎の所まで這い進んでいく。
「はぁ…はぁ…」
身体を折りたげて肌の露出している太腿や脹脛を床に密着させて踏ん張り尺取り虫の様に身体を伸ばして進む、椅子に固定されているせいで身体を90度以上伸ばすことができず、もがいた疲労もありほんの数十センチ進むだけでも苦労を要した。
「はぁ…はぁ…大丈夫!」
千鶴は何とか星崎の目の前までたどり着き改めて星崎に呼びかけてみるが、星崎は相変わらず意識のないままだった、額の傷は遠目から見た印象より深く皮膚が割れ大量の血が溜まっていた。
千鶴は星崎の傷口に覆い被さるように胸を押し当てた、体重をかけ過ぎずそれでいて傷口をしっかり圧迫できるように調節する、Tシャツに赤い染みがじわじわ広がった。
「この体制キツい……」
胸で圧迫することで一時的に止血には成功したが、千鶴の体力はもう限界に近い、鈍化して残り続ける転倒の痛み、縄の締め付け、あらゆる苦痛に耐えながら千鶴は早く助けが来ることを祈った。
………………………………………………………………
「はぁ…っ……」
星崎の止血を開始してまだ10分ほどだったが、千鶴はかなり険しい表情を浮かべていた。
「ダメだ、この体勢維持できない何か他に考えないと」
仕方ないと千鶴が止血を一旦止めようとしたその時星崎の目がパチリと開いた。
「星崎!大丈夫、私がわかる?」
星崎はぼんやりと千鶴を眺めていたが、その瞳は徐々に生気を取り戻し身体をもぞもぞと動かしはじめた。
「気をつけてひどい怪我だから」
星崎は身体を起こし、縛られた身体を椅子ごと横たえたまま話す千鶴を見下ろした。
「とにかく早く病院に……」
千鶴が言い切るより早く星崎は拳を振り下ろしていた、座った状態で適当に振り下ろした拳は千鶴の横腹にめり込む。
「うぅぅ……」
どうすることもできない千鶴は痛みに身体を悶えさせた。
「やってくれましたね」
星崎は傷口を押さえ身体をフラつかせながらも、千鶴を睨みつけていた。
「お前らの様な輩はこれだから……」
次なる打撃を与えようと星崎は拳を振り上げるが、その視界にはさっきより鮮明に千鶴の姿が映った。
「もう止めてよ……」
千鶴の頬を涙が伝った、拭うことも叶わないその水滴は、力なく横に項垂れた千鶴の頬を伝って近くを流れる星崎の血と混ざりあう。
「千鶴さん!!」
勢いよく扉が開き、千鶴のグループの男子生徒が2人雪崩れ込んできた。
千鶴も星崎も突然の出来事に言葉が出ず、千鶴は泣きじゃくったまま、星崎は拳を振り上げたままなんの反応もできずにいた。
「てめぇ、千鶴に何した」
「待って!」
星崎に掴みかかろうとする仲間を千鶴は咄嗟に静止した。
「とにかく縄を解いて……」
男子生徒は星崎を睨みつけるが、すぐさま千鶴の縄をほどきにかかる、2、3分経って縄から解放された千鶴は星崎に脱がされた短パンを履き直すとくっきり後の残る両腕を摩りながら星崎に向き直った。
「私たちの事も理解して……」
以前黙ったまま傷口を押さえている星崎にそれだけ言い残すと、千鶴は仲間と共に生徒会室を後にした。
………………………………………………………………
「いいんですか、星崎さん工藤をしばらく泳がせるって」
「千鶴さん大丈夫なんですか、また星崎と話をしに行くって」
「少しは信じてみようと思うから」