コミッションss 私の鎮守府(1)
🕑 Added 2023-09-16 13:38:38 +0000 UTC
コミッションで書いている、艦これ×筋肉の二次創作の進捗です。
結構な大作になる予定なので進捗をここに投稿していきます。
今回は導入&1章ぶんで11500字、まだまだ続く予定です。
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「戻ってきちゃった……」
巨大な門の前に立ち尽くす、白い軍服を着た女性。
着慣れているのだろう、きっちりとしたその着こなしは貫禄すら感じさせるが、服ごしにも分かる位には身体の線が細くもある。
彼女が見上げているのは、レンガ造りの巨大な建物。
どこか懐かしいような、迷いがあるような……複雑な感情が滲む呟きだった。
「ずっと立ってるわけにもいかないか」
5分ほどして、自嘲気味に薄い笑みを浮かべながら歩き出す。
自然と背筋が伸び、身体に染み付いた軍属らしい整然とした歩行へと変わる。
顔つきも真剣なものへと変わり、鋭い雰囲気を身にまといながら門をくぐった。
彼女はかつてここに所属し、提督を務めていた。
優しく穏和な性格は司令官として向いていたかは分からないが、的確かつ堅実な采配と人格ゆえに艦娘たちからの信頼も厚かった。
着任してから着実に戦果を挙げ続け、鎮守府全体の評判も高まっていく。
そして、中堅から最前線を任される筆頭戦力となりつつあるときだった。
元々病弱だった彼女の身体が、提督の激務によって悲鳴をあげた。
執務室の机から立ち上がろうとしたところまでは彼女自身も覚えている。
気がつくと病院のベッドにいて、心配そうな表情の艦娘たちに囲まれていた。
医者からの説明では生命すら危ぶまれる状態まで追い込まれており静養は必須、根治させるにしても年単位の期間が必要となる……そんな状態だった。
普通であればこの時点で提督が交代するはずなのだが……彼女の場合は違っていた。
治る見込みがあること、くわえて今まで挙げてきた彼女の戦果や所属の艦娘たちの強い希望によって、新たな提督を置くことなく活動を維持することとなった。
彼女が艦娘たちに伝えたのは、
・やれる範囲の出撃をすること
・大破した子が出たら絶対に帰投すること
・余った資材で建造を続けること
・みんな無事で、生き残ること
しかし病気は待ってくれず、これ以上の細かな指示は出せないまま、とにかく全員が無事でいるようにと念を押して長期療養となった。
それから数年。
彼女は治療と静養に専念し、ある程度の体力の回復と仕事ができるだけの余裕を持てたので提督として復帰したのだ。
(本当に大丈夫かな……)
見覚えのある敷地内を歩きつつ、心配そうな表情を浮かべる。
前例のほとんどない、艦娘たちのみの運営。継続的に戦果をあげ、問題がないことは伝え聞いている。今までこの鎮守府を維持のが何よりの証拠だろう。
……ただ、数年ぶりの対面とあっては、どんな顔をして会えばいいのか分からない。
(まずは会って、それからか)
器用な方ではないし、また少しずつ慣れていこう。
割り切って、玄関の近くまできたときだった。
「あら、お客さんかしら?」
見慣れない顔に声をかけられた。
自分よりもずっと豊満な肢体に、戦艦特有の艤装、星条旗を模したビキニ……間違いない、戦艦アイオワだ。
「あー、えっと……ここの提督をしてたんだけど」
「Admiral!話には聞いてるわ、よく戻ってきてくれたわね!」
「むぐっ!?」
喜びながら抱きついてくるアイオワ。
身長差もあって彼女の顔は豊満な胸に埋もれてしまい息ができなくなる。
戦艦アイオワ……療養する少し前に存在は知られていたが、まだ自分の鎮守府には着任できていなかったはずだ。
そのまま治療のためにここを離れたし、あちらも自分の事を知らない。
つまり、おそらく自分のいない間に建造に成功したのだろう。
艦娘たちが指示を守って、着実に行動し続けてくれていたのだと、胸の中に暖かいものが溢れそうになる。
「アイオワはどうしてここに?」
「練度を上げるために出撃してたのよ」
「……ん?」
目の前に立つ彼女を見上げて、胸の中に疑問が浮かぶ。
アメリカ出身ということもあり、元から体格がいいのは事実なのだが、それにしても体格が良すぎるのだ。
大の男が横に立ったとしても、互角以上に渡り合えるだろう。
気にはなったものの、確証は持てないし今わざわざ言うことでもなさそうだ。初対面だから違和感を覚えているだけかもしれないと自分に言い聞かせる。
「ちょっとダメージを負ってしまったから、Repairにね」
入梁するのだろう、艤装や肌が少しすすけてしまっている。
色々気になるが、艦娘たちが無事に活動しているのは確かなようだ。
提督はアイオワの後ろをついていくように玄関へと入った。
「提督か、よく帰ってきたな」
玄関に入ると、待っていたとおぼしき少女が出迎えた。
眼鏡にグレー調のセーラー服、灰色がかった髪をポニーテールにまとめている。
それは、自分のよく知った艦娘だった。
「天霧……!」
数年ぶりの再会に、いろんな感情が噴き出して胸の中が一杯になる。
提督は彼女に抱きつこうと駆け寄って—―
「……え?」
その足が止まる。
感動に浸る余裕はすでになくなっていた。
近づいて、あと数歩先にいる艦娘を見上げる。
記憶の中の天霧は、駆逐艦らしいスレンダーな少女だったはずだ。
しかし目の前にいる彼女は……あまりにもガタイが良すぎた。
自分よりも、というかアイオワよりも頭一つほど高い身長に、横幅もあきらかに上回っている。
一般にいわれる女性的な体型……とも違う。
(これ……筋肉?)
がっしりとした骨格にくわえて、の詰まった
薄かった胸は分厚くせり出し、乳房の膨らみではなく大胸筋の影がうっすらと浮かんでいる。
さきほどアイオワに抱いた違和感も、うっすらと見える筋肉の隆起だということに気づく。
こちらは国と戦艦という要素でまだ理解できる範囲内なのだが、天霧はその比じゃない。
「帰投したわ。小破で済んだけど」
「お疲れ、近海で一発もらうようじゃ、まだかかりそうだな」
固まる提督の横で、アイオワと会話する天霧。
先輩ということを踏まえても、とても駆逐艦とは思えない態度なのだけど、体格差から自然なことのように思えてくる。
そのままアイオワは入渠へと行ってしまった。
「あ……えと」
何から話せばいいのか、言葉に詰まる。
あちらから言ってくれればいいのだが、まったくその気配がない。
よくよく考えると脚なんかは太めだったし、この数年間でさらに鍛えたんだろうか?
とりとめのない思考が渦巻いていく中で—―
「提督?」
横から声をかけられて振り向くと、こちらに近寄ってくる人影がもう一つあった。
短めの黒髪、コルセットのようなセーラー服、手足の肌の露出が一切ない黒の全身インナー。
駆逐艦、初月だ。
よく知っているはずの艦娘なのだが、その容姿はまるで別人のようだった。
「そんな……貴方まで……」
彼女もまた、天霧と同じくがっしりとした体格で、筋肉がインナーごしにも浮かび上がっている。
少女らしい容姿の駆逐艦……その中でも年長者にみえる初月だとしても普通じゃない。
これじゃあ大戦艦だ。
「どうしたんだい、提督。僕らはちゃんと仕事してきたよ」
不思議そうな顔で問いかけてくる初月。
アイオワを建造できたことも、この鎮守府を維持してきたのも、すべて彼女たちのお陰だ。
でも—―
「……どうして、そんな身体になったの?」
艦娘の肉体が成長するなんて聞いたことがない。
普通の人間のように成長するにしても、この変わりようは異様だ。
「え、そんなって……?」
「ん?……ああ、そういうことか」
何を言われているのかよく分からないといった反応を返していたが、自分たちと提督の身体を見つめて、ようやく納得したように頷く天霧と初月。
「説明するのは難しいな……工廠に行けば分かるさ」
「ああ、僕たちもついて行こう」
促すように手で示しながら、工廠の方に歩き出す2人。
混乱が抜けきらない中、提督は彼女たちのあとをついていった。
見慣れた廊下を進む提督。
通り過ぎる部屋一つ一つも、何度も見てきた覚えがある。
……ただ、前を歩く2人の後ろ姿だけが記憶にないものだった。
(なんで……こんな……)
背中によって生み出された逆三角形の輪郭に、服越しにもわかる筋肉のうねり。
太腿も筋肉によってサイズアップしているのだろう、普通に歩いているだけなのに内股が擦れてしまいそうなほどに太く、一歩ごとに脂肪とは違う固そうな揺れを繰り返している。
これだけの身長と体格なら、体重も相当なものだろう。
古い床なのもあってか、彼女たちが歩くごとにわずかに軋んでいるような気がする。
そろそろ工廠に着くはずだと、脳内で鎮守府の内部を思い出していると……
「お、入渠が終わったみたいだな」
天霧の声で、意識が進行方向へと引き戻される。
彼女たちのさらに前方、工廠と書かれたのれんからぬっと出てきた人影が、そのままこちらへ近づいてくる。
顔と格好からして、さきほどのアイオワだとすぐにわかった。
しかし—―
「え……?」
その姿に、目を見開いて固まる提督。
自分の倍はありそうな肩幅に、太く筋肉の形が浮き上がった二の腕。
豊満な乳房ごしにもわかる胸板の厚みに、レンガのような腹筋。
電信柱のように太くどっしりとした両脚を動かして、歩いている姿は圧巻ともいえる。
(お、大きい……)
そう、先ほどよりも明らかに……デカくなっていた。
元から筋肉質だったということを差し引いても、同一人物だとは思えない肉体の変化。
数分前に見たのだから、見間違えようがない。
そもそも、アイオワがこんな筋肉をしていること事態がやはり異様なのだ。
「イイ身体になったじゃねぇか」
「ええ、また行ってくるわね!」
アイオワの背丈は天霧や初月と遜色ないほどに達しており、戦艦としての特徴ゆえか豊満さや肉感では2人を上回ってすらみえる。
彼女たちがたむろしているだけで廊下が埋め尽くされてしまいそうだ。
「提督も、Bye!」
巨体となった彼女は軽く手を振りながらウインクして、提督の横をすれ違っていく。
風呂あがりだからか、それとも筋肉のデカさゆえか……わずかに熱気と汗の湿度を感じた。
「今の、アイオワ……」
「早かったろ、修復材を使ったからな」
唖然とした提督に対して、さらりと答える天霧。
高速修復材……バケツのような形をしたアイテムのそれは、使えばどんなに時間のかかるダメージであっても入渠を終えることができる。
練度が低く軽傷とはいえ戦艦だから、入渠にはある程度の時間が掛かるはず。それを一気に短縮できるのだ。
(修復材を使ったからって、そんな現象が起きるはずが……)
しかし入渠時間を短くできたからといって、筋肉や体格が大きくなる説明にはならないはずだ。
もしそんなことが起きるなら、今頃は全国の鎮守府で艦娘たちの筋肉が異常に発達しまくっていることだろう。
頭の中を疑問と困惑が渦巻く中、駆逐艦2人と提督は工廠へと入った。
工廠に入ると、そこでは施設の主たる艦娘がごそごそと作業していた。
「え……提督? おかえりなさい!」
突然の訪問による、数年ぶりの再会。
人の気配を感じて何気なく振り向いた彼女は提督を見て固まり、工具を手から落とした。
その顔には驚きの色が浮かび、そして歓喜の表情へと変わっていく。
工作艦の明石。
艦娘の中でも装備の開発や修理といった特殊な役割を担う存在であり、戦闘に携わる以前からの長い付き合いだ。
ピンクがかった髪に、所狭しと並べられた工具の数々。
さきほどまで作業していたその額は、うっすら汗ばんでいる。そこは数年前と変わっていない。
初期からお世話になっている艦娘の一人だから、感慨もひとしおである。
ただ……
「なっ……あ……」
しかし提督はその姿をみて、言葉を失っていた。
筋肉。
相当デカいと思っていた天霧や初月と比べても、2まわりは大きい。
人間の女性が……いや、男性も含め人間がどんなに鍛えたとしても、到達できないだろう筋肉量。
「すみません、こんな格好で。普通の服だと入らなくて……」
ビキニの水着にエプロンをつけた自分の姿を示しつつ、申しわけなさそうに頭を下げる明石。
普通の女子がこんな格好で建物の中をうろついていたら痴女でしかないし、下手すれば通報されてしまうだろう。
しかし今はその露出などよりも、肉体そのものが常軌を逸している。
「いや、そうじゃなくて……」
そんな呟きは、圧倒されたせいで喉からまともに出ることすらなかった。
エプロンと水着に覆われていない胸元からは、深い鎖骨の溝とともに大胸筋の上半分が顔を覗かせている。
軽く曲げた二の腕からはボコリと筋肉の瘤が浮き上がり、太腿などは大木のように太く巨大で筋肉がぎっしりと詰まっている。
太腿は大木のようで、一歩ごとにミチミチと詰まった筋肉が肌のすぐ下で動いているのが見て取れる。
全身どこを見ても、分厚い筋肉しか目に入ってこない。
胸板からカーテンのように垂れ下がったエプロンで隠れている腹部なども相当なものだろう。
「……で、提督が帰還して早々に何か用事ですか?」
仕切り直すように聞いてくる明石。
天霧も時雨も、こちらに視線を向けて発言を促してくる。
どうやら肉体まわりの疑問や困惑に対するニュアンスは、艦娘たちには伝わっていないようだ。
「その、みんなの身体……というか筋肉のことなんだけど……」
恐る恐る告げる提督。
艦娘たちが平然としすぎているせいで、自分の方がおかしくなったのかと思えてくる。
「ああ、修復材を使ったんですよ」
ようやく意図が伝わったようで、さらりと答える明石。
……ただ、それは彼女が満足できるような回答ではなかった。
「しゅ、修復材……あの、バケツ?」
高速修復材……艦娘たちの入渠に使われるアイテムであり、ダメージを一瞬で回復させることのできる優れものだ。
その形状から通称「バケツ」と呼ばれており、練度が上がれば上がるほど使用頻度は増していく。
特に連合艦隊での出撃などで負傷者が多数出た場合は、定員オーバーした入渠ドックに順番待ちするのはあまりにも効率が悪すぎる。
強力な敵艦隊との対決にあたっては、まさに必須のアイテムといえた。
「いや、でも、バケツで……その身体が……?」
ただ、説明を聞いてもなお困惑が消えることはない。むしろ彼女の頭の中で膨れ上がり埋め尽くしていく。
高速修復剤は、ただ艦娘たちのダメージを修復するだけだ。
もし、修復材でこんな筋肉体型の艦娘たちが生まれるなら、今頃は全国各地の鎮守府は筋肉で埋め尽くされていることだろう。
「提督が療養されてから、修復材を作る研究を始めましてね」
淡々と説明を始める明石。
入渠には時間がかかる。高練度の戦艦ともなれば、1日あっても足りないくらいだ。
ゆえに、これを一瞬で済ませることができるバケツは非常に強力かつ有用なアイテムとなる。
これが潤沢にあれば、より円滑に出撃をすることが可能になる。
ただ、限りある資源のため、ここのやりくりには苦心するものだ。
「より製造しやすく効果的なものを……と試行錯誤している中で、これができたんですよ」
明石が自分の足元にあったバケツを拾い上げて提督に示す。
普通ならば緑色をしているのだが……明石が持っているのは鮮やかなオレンジ色だった。
「提督は超回復ってご存じですか?」
唐突な話題を転換する質問に、提督はきょとんとしつつも頭を回転させる。
「確か、スポーツとかで聞くやつ……」
「そう!ダメージを受けた筋肉が、より太く力強く回復する……この現象を引き起こすことに成功したんです!」
嬉々として語る明石。
その証拠だと言わんばかりに、自らの筋肉を見せつけるように腕を曲げて提督の方へ向ける。
力瘤と上腕三頭筋でラグビーボールのように盛り上がった二の腕は、顔面を覆い隠せてしまえそうなほどに巨大だ。
「修復するたびに、艦娘たちの全身の筋肉をより強く、より逞しく肥大化させる!ダメージの回復はもちろん、より強力な肉体となれる!」
声のトーンがひときわ高く、力強くなる。
今までの効果を思い出して興奮しているようだ。
「出撃するたびに飛躍的に戦力が向上するんだ」
「これのお陰で、今までやってこれたからな」
天霧も初月も補足するように説明を加えてくる。
その顔には、明石やこのバケツの効果を心から信頼しているがゆえの微笑みが浮かんでいた。
「…………」
わざと危険な行為をしているわけではないことは分かった。
十分すぎるほどの戦果を挙げていることも静養中の報告で知っているし、明石も鎮守府のためを思って開発してくれたのだろう。
実際、見た目からして強そうなのは十分に伝わってくる。
(ただ……)
本当に大丈夫なのだろうか?
あまりにも奇異な見た目、そして修復剤の効果や自らの肉体を信じて疑わないその態度。
何か、もっと重大な影響があるのではないか。
メリットは分かったし、相当なものだろう。彼女たちを咎めるつもりはない。
「でも、やっぱりこの方法は—―」
ここの司令官として、今のままでいいとは思えなかった。
もし、この特殊な修復材が公になったら……混乱を起こしかねない。
他の鎮守府や大本営との関係もややこしくなるだろう。
心を鬼にして、口を挟もうとしたときだった。
「明石、ちょっと入渠させてもらうぜ」
提督の発言が、横からの声に遮られた。
入渠ののれんをくぐって入ってきたのは、一目で艦娘だとわかる。
加工されているうえに様々な艤装やファッションで飾られているものの、身に着けているのはスクール水着。潜水艦の特徴だ。
やはり筋肉質な身体ではあるものの、アイオワよりは細く横幅も抑えめでスレンダーな部類に入るだろう。
幼い印象の多い潜水艦たちだが、彼女からは女体美すら感じさせる。
……それでも、提督より頭一つ分ほど背は高いのだが。
「ん、見ない顔だね。お客さん?」
そして、提督にとっては初対面の艦娘だった。
容姿や艤装からして、海外艦なのはなんとなくわかる。
どこか中性的で美形とも呼べる顔立ちながらも、ダウナーな表情とアルトボイスが組み合わさって独特な印象を生み出していた。
「ああ、スキャンプか」
「提督が復帰したから、案内してるんだよ」
天霧たちは顔見知りらしく、何気ないトーンで会話をしている。
スキャンプと呼ばれた潜水艦の艦娘は、こちらに歩み寄りながらずいっと顔を近づけてくる。
「あんたがAdmiral?」
じろじろと提督の全身を見つめるスキャンプ。
他の艦娘たちと比べてスレンダーとはいえ、提督よりもずっとガタイはいいので圧迫感は相当なものだ。
身長差のせいで見下ろされる格好となり、一歩後ずさる提督。
「めちゃくちゃ細いのな。うちのadmiralって言うから、もっとデカいもんかと」
「おいおい、提督は療養中だったんだ、無理言うなよ」
率直な感想だったのだろうが、すぐさま提督をかばってくれる天霧。
肉体は別人のようだが、こういうところは昔から変わっていないようだ。提督の胸中に安堵と嬉しさが滲む。
「すまない、事情をまったく考慮してなかった」
すぐに頭を下げるスキャンプ。
肉体的にも、艦娘としての歴の長さからみても、彼女たちの方が立場は上らしい。
「いいよいいよ、色んな子がいるのは前からだし……」
着任したてのときには、もっと手荒な態度を繰り出した艦娘もいたことを思い出す。
それこそ、秘書艦にしていた「あの子」なんか……
「それにしても、かなりやられてんじゃねぇか」
天霧が話題を切り替えるようにスキャンプの身体を見ながら声をかける。
水着についた焦げ付きや破れた跡、各所がねじ曲がった艤装の数々。
先ほど入渠していたアイオワよりもダメージが大きいのは一目でわかった。
「あぁ、やたらめったら爆雷を撒き散らしてきやがってな……一発当たっちまった」
屈辱と言わんばかりに顔を歪めるスキャンプ。
爆雷は水中で爆発するもので、潜水艦を相手にするために特化した攻撃である。
潜水艦がこれをまともに食らえば致命傷になるのは避けられない。運が良くて中破……大破で帰投するのも当たり前といった有様だ。
「そうだ、新作の修復材を作ってみたんですけど、試してみてくれます?」
明石が何かを思いついたように、スキャンプへオレンジのバケツを手渡す。
「今までより濃度を高めてみたんです。効果も倍増してるはずですよ」
「Thanks、こんな傷、さっさとおさらばするに限るね」
スキャンプはバケツを受け取り……。
何のためらいもなく、頭から液体をかぶった。
ザバァ
「あ……」
提督が声をかける余裕もなく、全身びしょ濡れになったスキャンプ。
スク水なので濡れても問題ない……というのはさておき、懸念していた高速修復材、しかも新作の原液を浴びたわけで気が気でない。
「…………」
あたりを包む、数秒の静寂。
びしょ濡れたスキャンプは、全員の視線を浴びたまま動かない。
少しうつむいた状態の表情はよく見えないのだが……ニヤリと口角が上がる。
それは、獰猛な捕食者としての笑みだった。
「キタキタキタアァァッ!」
今までのどこか達観したような口調とは別人としか思えない、部屋を揺らすような低く太い雄叫び。
首筋や肩、露わになった肌から血管がビキビキと浮き上がり、わずかに見えていた筋肉の隆起が内側から盛り上がる。
なだらかに引き締まっていたはずの二の腕はラグビーボールが埋め込まれたかのような輪郭を描き、そのまま肥大していく。
スク水ごしに腹筋と大胸筋の凹凸が見え始め、その谷間はみるみる深い溝に変わっていく。
ただ力を込めただけでは起こらない、筋肉自体のボリュームアップ。
胸も、腹も、太腿も……全身のいたる所が膨れ上がっていく。
目の前で、魔法かCGでも見ているかのように、骨格ごとすさまじい巨体へと発達していく。
「もっと、もっとだァ……」
ついには天霧たちを追い抜き、明石に届くレベルの筋肉量へ達したスキャンプ。
先ほどまでのスレンダーさや女体美としてのプロポーションは面影もなかった。
「ゴツい」という表現を繰り返したくなるような肉体。
身長もさらに伸びているのだが、それ以上に太く厚くなった体幹や胸板のせいで倍増した横幅の方が目立っている。
スク水はギチギチに引き伸ばされながら耐えていたが、その他の艤装はそうもいかない。
内側からの圧力によって破断し、すべてが鉄屑と化して周囲に散らばっていた。
「すげぇ……」
感動した様子で自分の身体を眺めつつ、確かめるように分厚く大きくなった手を動かしている。
中性的で整った顔立ちも、濃いグレーで目元まで伸びた髪も、そのままだ。
しかし首から下は着ぐるみでも着ているような有様で、ビキビキに浮き上がった筋や血管が、これらが生身であることを如実に物語っている。
「この筋肉なら爆雷でも傷一つつかねぇ……もう海防艦なんか目じゃねぇよ!」
ふんっ、ふんっ……と筋肉に力を込めて、その感覚やサイズを実感しているスキャンプ。
その腕や脚がわずかに震えているのは、興奮と感動によるものだろう。
文字通り、歓喜に打ち震えているのだ。
「ふーっ、んっ……ははっ、これヤバすぎんだろっ……!」
全身の筋肉を堪能するように収縮させながら、試作品のバケツの効果にご満悦なのがうかがえる。
ただ、徐々にテンションが高くなっている。
急上昇した体温によって汗の雫がいくつも浮かび上がり、筋肉自体も血液が巡ってパンプアップしているようだ。
それはもう、今にも暴れ出しそうなくらいの気迫で……
「全身の筋肉が疼いてきやがる……ダメだ、止めらんねぇ!」
嫌な予感はすぐに現実となった。
筋肉が生み出す衝動のままに、スキャンプは置いてあった鋼材を掴みだす。
そして—―
「ふんっ!」
メコッ……ギイィ
そのまま、一気に折り曲げた。
まるで加熱した飴細工のようにねじ曲がる鋼材。
あまりにもあっけなさすぎて鋼ではなくもっと柔らかな素材だと思いたくなるような光景。
ただ、曲げられた鋼材の折り目にわずかに入ったヒビが、無理矢理な外力によって変形させられたことを物語っていた。
「まだまだぁ……こんなもんじゃ足りねぇ!」
ドゴッ、ゴスッ!
鋼材では筋肉の衝動を発散させるには弱すぎたらしい。
疼き収まらないようで、工廠の壁を殴りつけるスキャンプ。
拳を中心に、巨大な機械が暴走でもしたかのようなクレーター状の窪みができる。
「ひっ!」
提督は思わず後ずさり天霧と初月の後ろに隠れるが、2人は平然と立ってそれを眺めている。
「副作用で昂りすぎるのが改善点かなぁ」
明石に至っては、至近距離で暴れまわる様子を眺めつつ、淡々とメモを取っていた。
「ふんっ、ぐおぉっ、おらぁっ!」
ドゴッ、メキッ、バキャァッ!
まるで巨大な敵と戦っているかのように、周囲の壁や器具を破壊していくスキャンプ。
拳の威力も増しているようで、距離を置いて立っている提督の足元にまで振動が伝わってくる。
これ以上は危険じゃないかと、本能的な危機感が脳裏に浮かびだしたそのとき—―
「はいはい、流石に施設まで壊されると後が大変なんで止まってくださいね~」
一番近くにいた明石がのしのしと近寄り、彼女の両腕を抱きしめるようにして掴んだ。
暴れ回る相手を取り押さえる……しかも筋肉に包まれた巨体である。
分厚い筋肉同士が衝突したようにも見えたが、明石はまるでなかったことかのように平然とスキャンプを拘束していた。
「ふーっ、ふーっ……!」
明石に抱きしめられたまま、デカい肩を上下させて呼吸しているスキャンプ。
いくらか力は入れているのだろうが、明石の巨体がそれをがっしりとホールドしている。
筋肉がビクビクと盛り上がっているあたり、相当な力は入っているのだろう。ただ、本人の全力ではなさそうだ。
ヘビー級の抑え込みのやり取りが、数十秒ほど続き……。
少しずつスキャンプの怒張していた全身が鎮まっていく。
どうやら昂ぶりが収まってきたようで、表情にも先ほどまでのダウナーな色が戻りつつあった。
「落ち着きましたか?」
「あぁ……すまねぇな」
もう大丈夫だと身体で示すように、だらりと力を抜くスキャンプ。
しかし脱力しているにもかかわらず、その筋肉はボコボコと全身を分厚い甲冑のように覆っている。
肥大した筋肉も、肉体も、完全に彼女のものとなったのだ。
「大丈夫だって、いい筋肉になったんだし、データも取れたし♪」
新開発のバケツの効果を確かめられて満足そうな明石。
おそらく、これも日常の範囲内なのだろう。
「次の出撃が楽しみだな」
「早く使ってみたいけど、普段の出撃じゃ小破もしないからね」
天霧や初月も、とくに動じた様子はない。
しかし—―
「そんな……」
提督は違った。
艦娘が、まるで野獣のような雄たけびをあげて暴れ回る……。
変わり果てた姿も衝撃だったが、それ以上に感じていたのは、責任感だ。
自分が療養に出たせいで、艦娘たちが異様な薬に手を染め、異様な生活を送っている。
それは、どう考えても自分が司令官としてこの場にいられなかったせいだ。
前例のない現象にくわえて、自責の念……それらを受け止めきれるほど、彼女の身体はまだ回復しきってはいなかった。
フラッ
「おっと、大丈夫?」
強烈なショックゆえに、立ち眩みを起こしてしまう。
倒れそうになったところを、隣にいた初月が支えてくれた。
駆逐艦とは思えない分厚い肉体が成人女性の身体を受け止め、熱い筋肉の感触が服ごしにも伝わってくる。
「流石に……刺激が強すぎたんじゃないか?」
「復帰してすぐ、これを見せてしまったのは私も軽率でした」
明石も、スキャンプが暴れた跡を眺めて自省している。
「I’m so sorry……怪我はなかったか?」
そして暴れた本人であるスキャンプも提督のもとへと近づき、深々と頭を下げた。
冷静さを取り戻した彼女の顔は、あのバケツをかぶる前と変わっていなかった。
首から下の筋肉ボディとは別人のような、中性的な美貌とダウナーな雰囲気。
目の前に迫った彼女の顔をみて、改めて美人なのだと思い知らされる。
「驚かせてしまったな……でも、もう大丈夫だ。この身体をfullに使って、提督に尽くすよ」
スキャンプは提督の倍以上に太いその腕を、ゆっくりと怯えさせないように彼女の背中へ回し、ハグをした。
静養明けの華奢な肢体が、その圧倒的な筋肉に包み込まれる。
さきほどまで同じこの身体で暴れていたことを忘れてしまいそうになるような、優しく暖かな抱擁。
全身から立ち上る汗の匂いのせいか、遠ざかっていた意識も引き戻されていく。
「あ……」
言葉が出ない。
強烈なショックを受けたのは確かだし、異様な状況なのは間違いない。
しかし、艦娘たち自身が強さを望み、得たものなのだ。その肉体に触れて、どこか安心感を覚えている自分もいた。
落ち着いた彼女の顔を見つめれば見つめるほど、自分が何を信じればいいのか揺らいでしまう。
「この身体が当たり前になってたからなぁ……」
「提督、食堂で少し休もうか」
提督の身を案じつつ提案する初月。
お昼時でもないし、あそこなら静かで広い空間で落ち着けそうだ。
明石とスキャンプを残し、3人は食堂へと向かった。