作業進捗
🕑 Added 2024-07-16 12:20:06 +0000 UTC
受けているpixivリクエストの導入です。
書き上がったら全体公開になるかと思います。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
街の大通りから外れた裏手には大小さまざまな雑居ビルが立ち並び、それぞれの輪郭が曖昧になるくらい看板や電線が物々しく飾っている。
それでいて人が通ることも少なく、どこか近寄りがたい印象も与えていた。
林立するビルの方へ意識が向きがちだけど、今日の本題はその足元、ぽっかりと開いた口のような地下へと続く階段を降りていく。
警備なのか案内人なのか、気怠そうに立っている女性の横を抜けた先。
ナイトクラブ……その従業員用のエリアに僕はいた。
「よし、これで契約は成立ね」
書類にサインをして、それを机を挟んで反対側にいる女性……ここの店長さんが受け取る。
面接とは名ばかりの、受かること確定の作業をちょうど終えたところだ。
「大学生か~、いいね、若くて元気で」
「ど、どうも……」
のんびりとした口調の店長さんとは対照的に、僕は緊張したままきょろきょろと周囲に視線を泳がせる。
かなり綺麗な内装だし、ここだけでもオシャレなお店っぽくはある。
ただ机の上には事務的な書類なんかが乗っていて、やはり裏手なんだなと実感する。
「業務はホールスタッフで、できれば今から出勤できる?」
「いけます……けど」
新入りらしく勢いよく答えようとしたけれど、語尾に自信がなくなっていく。
ナイトクラブという自分には縁遠い種類の店ゆえに、どんな雰囲気なのか想像できない。
ホールといってもどういった仕事になるのか想像できないし、何かやらかさないか不安になってくる。
「だいじょーぶ、最初は眺めてるだけでもいいから」
だんだん慣れていけばいいよ、とニコニコしながら語る店長さん。
突然のお願いなのは十分に承知の上という感じだ。
「お客さんも常連ばかりだし、新人だって歓迎してくれるよ」
店長さんに案内されてここまでついて歩いたときも、奥まった場所すぎて途中で不安になってきたくらいだし、あまり新規のお客さんが入ってくるようなお店ではないのだろう。
お客さんの方が慣れているのなら、トラブルなんかは少ないのかもしれない。
「ちゃんと今日から提示したお金は払うから、お願いできる?」
「まぁ……それなら」
そして、ここを受けた一番の理由……バイト代が破格だったから。
そもそも、最初からこの店で働きたいと志望してたわけじゃない。
講義を終えて帰宅途中、これから夜になろうというタイミングで、店長さんに声を掛けられたのだ。
なんでも「未経験でいいから君みたいな子が欲しかった」のだとか。
「家にいてもやることないですし、ちょうどいいかなって」
1人暮らしだし、別に帰りが遅れても困る人はいない。
普段だったら相手にしてなかったかもしれないけど、興味というか好奇心なんかも働いて、あれよあれよという間にバイトになっていた。
まぁ、店長さんが美人だった……というのが一番大きかったんだけど。
「そうだ、契約にも書いてあるけど、1点だけ絶対に守ってほしいのは……」
「絶対に口外しないこと……ですよね」
契約をする前に、説明はしっかり聞いた。そのときに何度も言われたことだ。
こういう場所についてあまり詳しくないけど、あまりクリーンな印象はない。
バイト代が高いのも、口止め料みたいなものなんだろうと思う。
「ありがと、じゃあ、これからよろしくね」
非合法とか、そういうのじゃないんだけどね~。とのんびりとした口調で語る店長さんの様子からは、そこまで拘る理由も見えてこない。
あとは、実際に見てみるしかないのだろう。
「……まぁ、言った所で信じる人もいないんだけどさ」
小声で呟かれた言葉は、ほとんど聞こえなくて反応できなかった。
「ここが関係者用の出入り口ね」
示されたのは、お客さんのいる空間に続く少し重そうなドア。
すでに扉の向こうから、重低音の振動がわずかに漏れ聞こえてくる。
「向こうがメインフロアになってるから」
彼女が説明しながらドアノブをひねる。
向こうの空間と繋がった瞬間、大音量の、それでいて耳障りじゃない音圧のあるノリのいい音楽がはっきりと耳に入ってきた。
店長さんに促されるまま、ドアの向こうへと足を踏み入れて──
「うわぁ……」
一言でいえば圧巻だった。
薄暗く、しかし広大な空間をきらきらとした照明が彩っている。
正面にはステージがあり、大きな機材が置かれたそこでDJらしき人が操作しながら曲をかけている。
そしてフロア全体に、お客さんだろうスタイルのいい女性たちがたむろしていた。
音楽にあわせてノっていたり、周囲に配置された座席で楽しそうに話してたり……。
まだ客はまばらだけれど、これから増えていくのだろう。
(すっごい……)
お客さんから立ちのぼる熱気と湿度、そしてエアコンの冷風が共存していた。
うっすらと甘い匂いがするのは提供されている酒ゆえか、客たちのものなのか……。
とにかく、感じるすべてが未知の世界だった。
「まずは適当に回ってみよっか」
店長さんの案内が始まろうとした、その矢先──
「ね~、その子新入り?」
唐突に声を掛けられ振り向くと、いかにも場慣れした雰囲気の女性が近づいてきた。
背中まで伸びた金髪に、へそ出しのタンクトップ、太腿全開のホットパンツに耳にはいくつものピアス……ギャルらしさの塊みたいな人でちょっと身構えてしまう。
同時に店長さんとは違うタイプの美人でもあって、視線を逸らすこともできなかった。
「うちの常連だよ、いつも入り浸ってるの」
「ど、どうも……」
少しぎこちない動きなのを自覚しつつ一礼する。
常連さんはじっと僕の全身を眺めてきて……
「初々しいね~、いいじゃん」
明るい笑顔を浮かべた。どうやら印象は悪くなかったらしい。
これからバイトするわけだし、出だしで躓かずに済んだことに内心で安堵する。
「これからフロア回るんでしょ、ウチに任せてよ」
「え、えっ!?」
突然の申し出に困惑を隠せない。
初対面の人に案内されるなんて想定外だし、そもそもこんな陽キャの結晶みたいな人と2人で回るとか考えたこともない。
いや、店長さんも合って1時間くらいしか経ってないけども……。
「色々教えてあげるかんね~!」
「え、あ、ちょっ……」
いかにも陽キャなノリでぐいっと腕を組まれ、力強く引っ張られていく。
店長さんも小さく手を振ってたけど、本当にこれでいいの!?
「クラブだから、ワイワイ楽しくやるための場所だけど……」
僕の腕を引きながらどんどん進んでいく常連さん。
結構な広さはあるけど、ステージと客席があるくらいで内装はとてもシンプルだった。
中央は人が集まれるような空間ができていて、まだ人がまばらなそこを彼女に連れられて通り抜けていく。
「まずはココだよね~♪」
やってきたのは人だかりから少し外れた壁際、高さのある椅子が並んだエリア。
横長のテーブルの向こうには、ズラリと酒瓶やドリンクが並んでいる。
いわゆるバーカウンターだ。
「……オーダーは?」
少し低めの落ち着いたトーンで、バーテンダーさんが声をかけてくる。
白いシャツの上に、この職種特有の袖のない黒ベストを着込んでいる女性。
髪は短めで、今まで会ってきた人たちよりも中性的でボーイッシュな顔立ちをしてる。
服装も合わせてかっこよく決まっているけれど……それ以上に目を引くのは彼女の胸だった。
きっちりと着込まれたシャツを、ギチギチに押し上げている乳テント。
グラスを拭いている動きにあわせて、二の腕の間でたわんでいるし、移動するたびゆさゆさと制服ごと揺れている。
「新入りちゃんに何か作ってあげて!」
隣にいる常連さんが注文する。
……え、挨拶するだけじゃなかったの!?
「あの、流石に最初から飲むのは……」
「いいって~、ウチの奢りだからさ♪」
やんわりと断ろうとしたけれど、屈託ない笑みで押し切られてしまう。
接客という意味でも、この場の空気を理解するという意味でも、ここで無理やり断るのは悪手に思えた。
おどおどとしているうちにコトリと音がして、自分の前にグラスが置かれていた。
「どうぞ」
コースターに乗せられて差し出された飲み物はカクテルのようだった。
なみなみと満たされた乳白色の液体は、暗い中でも分かるくらいにピンクがかっている。
「じゃ、せっかくだし初バイトのお祝いしよっか!」
いつの間にか自分の分も受け取っていた常連さん。
「かんぱ~い♪」
「か、かんぱい……」
この人に任せた時点で、店長さんもある程度はわかっているのだろう。
内心で言い訳しつつ、恐る恐るグラスに口をつける。
そのまま中の液体が舌の上に流れてきて……
「……おいしい」
とても甘美な味わいが口いっぱいに広がった。
生クリームみたいにすごく濃厚で、アルコールの焼けつくような感覚が緩和されて飲みやすい。
名前だけ聞いたことはあるけど、カルーアミルクってこんな感じだったっけ。
色とかはちょっと違うような気もするけど……。
「ここのバーテンは腕が抜群だからね~♪」
自分のことじゃないのに自慢げな常連さん。
バーテンさんは何も言わなかったけど、軽く頭を下げてくる。
「バイト君は学生?どこ住んでんの?あとでスマホ持ってきて連絡先を……」
それからは、見た目通りにギャルらしい距離の近さで質問攻めされたり、雑談したり、いつの間にか2杯目を頼まれてて恐縮したり……。
キャバクラの男女を逆転したような感じではあったけど、いやらしさは感じない。
そうやって過ごしているうちにナイトクラブという空間にも慣れてきて、だんだん緊張がほぐれてくる。
これならやっていけるかもと、
「……あ、そろそろ始まるかな」
思い出したような素振りで、常連さんがカウンターの後ろを見る。
気づけばフロアにかけられていた曲はアップテンポなものに切り替わっていて、お客さんたちがフロアの中央に集まってノリノリで踊っていた。
後ろの壁はスクリーンになっているらしく、暗い中で色彩が切り替わって映えている。
DJの人も音楽に合わせて頭を振りながら機器を操作していく。
曲の調子が高まってゆき、レーザーの光なんかの演出もあわせて、一気に盛り上がってきて──
ブワアァァァッ!!!
ピンクと紫が混じったような波が、フロア中に広がった。
見間違いかと思いつつも、反射的に腕を前に出してかばう。
一瞬、衝撃が押し寄せたような感覚があって、すぐに収まる。
何が起きたのか理解が追いつかないまま、そっと顔を上げると……
「……え?」
最初は、誰かがテンション上がって服を脱いだのかと思った。
裸同然の格好で、肉感にまみれた肢体を強調するように腰をくねらせ、乳房と胸を揺らして踊る痴女たちの集団。
いや、主にエロマンガとかで見た事のある、この特徴的な容姿は──
「ウチらサキュバスだから、よろしくね♪」
隣を見ると……常連さんも、悪魔みたいな角と翼と尻尾が生えていた。
元々モデルみたいにスタイルが良かったけれど、胸やお尻がサイズアップして煽情的な女体へと変貌していた。
服装もより過激な露出の、下着同然のスタイルへと変わっている。
「……よろしく」
バーテンダーさんの方へと顔を向けると、角と翼と尻尾の生えた爆乳の女性が立っていた。
というか、フロアのどこを見ても人間がいない。僕一人だけだ。
僕の思考はフリーズし、グラスを拭く動きに合わせて揺れる、さっきよりもボリュームの増した胸を呆然と見上げていた。
「おつかれ~、回ってみてどうだった?」
裏手に戻ると、店長さんも当然のように淫魔の姿をしていた。
あきらかにサイズの合っていない服装で、胸の形がおろか乳首すら浮き上がって見えている。まるでどこかのエロゲから出てきたみたいだ。
「意外と落ち着いてるのね」
「ちょっと、まだ現実感がないというか……」
もちろんパニックにはなったけど、そもそも人間離れした存在の前で取り乱すこと自体が本能的にできなかったというか……。
色んな感情を通り越して、むしろ冷静になってしまったみたいだ。
「それに……なんとなく納得もしましたし」
時給が高いのも、口外しないよう念押しされたのも、こういう事情があるが故なのだろう。
これは……店の外で言うことはできない。
「ま、そのうち慣れるよ」
衝撃的なところを軽く流されて、
店長さんの姿を見てもどこか現実感がない。
魅力的……なのは確かだけど、淫魔だという呑み込みきれない事実が、違う世界を見ているというな気分にさせてくる。
「案外、居心地は悪くなかったでしょう?」
「まぁ……そうですね」
少なくとも、接客で困るようなことはなかった。
他のお客さんにも優しくしてもらったし、歓迎されていたのは間違いない。
正確には可愛がられたといった方がいいのかもしれないけど。
「そうだね~、1つだけ伝えておくとすれば……」
人差し指を立てて、少し間を置いてから店長さんが語る。
「私たち淫魔は、君みたいな人間が大好きってこと」
ありがたいんだか、常識からかけ離れた存在に目を付けられたと思うべきなのか……。
困惑もあるのだけど、彼女たちから伝わってくる好意もわかってしまう。
ただただ、僕は反応に困ってしまっていた。