庇われた俺の女子高生活 その2
🕑 Added 2022-09-11 11:06:47 +0000 UTC
その2
「来ましたね」
礼拝堂に足を踏み入れ、まず俺を迎えたのは山下だった。
(まあ、仕方ないか……)
こいつは俺と同じで元諜報員。諜報機関に対抗するための会議であれば俺と並んで打ってつけの人員だ。ここにいるのも当然といえる。
ただ、できれば席を外していてほしかった。こいつの前では迂闊なことは話せない。
(山下さえいなければ、出鱈目を吹聴でもして会議を上手くコントロールできたかもしれないのに)
そんな俺の心境など無視して会議は始まる。
集まったのはこの学校の理事長に宗教主任の野田、それからスーツを固く着た若い女性が数名だ。セーラー服姿の女子高生な俺と山下はかなりアウェイな雰囲気がある。いや、ただひとりだけ男な理事長のほうがそうかもしれないが。
「それでは始めましょうか」
野田の号令に理事長を除いた一同が居住まいを正した。
「まず、諜報員として不逞にも我が校に潜入し、聖母様のお慈悲によって現在は心を改め私たちの一員となった2人に、改めて事の顛末をご報告願います」
いかにも迂遠な言い回しだが、きっとこの中にはまだ捕らえた諜報員が俺たちだったという事実を知らない人がいるのだろう。要するに説明口調というやつだ。
そんなことより、
(……なんだ?)
出席者から時折り視線が向けられるのは、まあ俺が今されている話の当事者だから理解できる。けれどそのすべてが冷ややかで、なんとなく咎めるような、あるいは嘲りでもしようといった目つきに感じるのは、俺の自意識過剰だろうか。
(自分達に楯突いた結果こんなにされて、ざまあみろ……くらいの意味合いか?)
さて、俺か山下のどちらかが題目について話すことになるが、この手のやりとりは普段から山下が積極的だ。おそらく洗脳されているためにこの学校の役に立ちたくて仕方ないのだろう。今回も当然のように席を立ち、俺たちが聖法学院に目を付けた経緯や機関の組織図、支部の所在、事態をどの程度重く捉えているか、はては俺たちの細かな素性まで惜しみなく露呈させていった。
「ーーと、そんなところです」
外部に漏れては業務に著しい支障を来してしまうような機密情報すら敵の手に渡してしまい、俺は内心冷や汗に塗れた。
ただ、同時にこれは好機かもしれない。
「理事長、私たちに二重スパイの任をお命じください」
「……西本さん」
会議の切れ目に、俺はそう口にした。
かつて野田は身体の相違を不審がられる可能性を疎み、また俺たちの出自に希少性を見出し、それが手中からこぼれ去るリスクを重んじ、俺のこの提案を拒んだ。
けれど人体実験の後、這う這うの体で帰還したとあれば表面上被害者な俺たちへの信頼も増すだろうし、そもそも事態を明るみにするには『聖母によって瞬間的に性転換した』は超自然が過ぎるというもの。つまるところ、証拠など存在していないわけだ。無論、証人としてはまさしく俺たちが該当するが、洗脳下にある俺たちがこの学校に仇をなす言及を衆目に晒すような真似をするとは考えられていないだろう。
さらに今、山下は持ち得るすべての情報を暴露し切った。利用価値でいえば、もはや以前ほど俺たちを大切にする理由も弱いだろう。それに野田が反対していたとしても、理事長が俺の案に賛同する可能性だってあるわけだ。
(……?)
それらを滔々と説明し終えて、沈黙を保つ理事長を窺えば、彼はただ俺のことを睨みつけるばかりだった。
(さっきから、いったいなんなんだこの空気は)
実際、政府御用達の諜報機関を相手取ることを目的としたこの会議は聖立学院の今後を思えば相当に重要であろうし、空気が張りつめているのも当然といえば当然なのだろう。
が、しかし……。
「西本君」
時間の流れが止まったかのようにすら思える長い数秒の沈黙、その末に理事長はこう言葉を紡いだ。
どうやら俺は、危機察知能力の劣る人間だったらしい。
「その提案は、君にこの聖母像の前で我々への服従を誓ってもらってからにしようか」
「へ?……わ」
突如、何者かが俺を羽交い締めにした。
背中に押し当てられる柔らかな双丘の膨らみ。少しだけ背丈の違いを感じさせる位置。俺の脇から伸びるその腕は同性、同年代の肌質を窺わせ、そこまでくれば俺の背後を取った人間が誰であるかはもはや想像に難くなかった。
「や、山下?なにを……」
「"山下"」
「……え?」
「雅美ちゃん、焦ると私のこと、前みたいに……"男だった時みたいに"山下って呼び捨てにしますよね?まあ、それだけなら別に構わないんですけど、聖母様に対して"様"を付けなかったのは、聖立学院で学ぶ生徒としてあってはなりませんでしたね?」
「……私が、聖母様を呼び捨てに?そんなこと……」
「中等部での自己紹介の際、呼び捨てにしていましたよ」
「……」
どうだったろうか。さすがに自分の過去の発言を一言一句まで覚えてはいない。ただ、仮にもし俺がそんな失言を犯して、さらにそれがこの学校の生徒にとっての逆鱗で、"洗脳されていたら絶対に侵し得ることのない内容のもの"だったとしたら……。
「もともと怪しいとは思っていたんです。一緒に生活していて、雅美ちゃんはこの学校の女生徒としての模範的な振る舞いにとても消極的で、先生や聖典の教えに対してもあまりに熱意が見られませんでした」
かつての身体であれば振り解くこともできたかもしれない。だが、今の俺は非力な女子高生そのものだ。さらに普通の女子高生が相手ならともかく、合気道に精通した山下相手では身動きを取るのは難しい。
「ある日ふと思い浮かんだんです。私たちがこの学校の一員となったとき、私、聖母様が差し向けられた雅美ちゃんへの洗礼を、庇うつもりで遮ってしまっていました……もしかしたらそれで、雅美ちゃんの心は汚れたままの状態でい続けているんじゃないかと」
もがく俺の視界には、鈍く輝き出す聖母像。
「そんな不安を野田先生にご相談して、そして私たちは雅美ちゃんを救うべく貴女に目を光らせていました。聖母様によるお導きはいつでも為せるものではないようで、可能になるそれまでの間、貴女が敵の手に渡ってしまわないように、聖立学院の生徒としてみんなに解け込めるように、陰ながら支え続けてきました」
思い当たる節は枚挙に暇がない。俺が脱出の抜け道を探るべく校内を物色しようとすれば山下は友人を引き連れて俺をその輪に混ぜようとしてきたし、朝支度ではクラスで流行りの髪型を俺に施してきたりと……あれらはただの世話焼きではなく、明確な意図に基づいたものだったということか。
「本当にごめんなさい。私があのとき余計なことをしたばかりに、雅美ちゃんを辛い目に遭わせてしまいました……ですがもう安心してください。これでようやく貴女も、心からこの学校に尽くせるようになれます。私、親しかった先輩とまた心を通わせて、一緒にいられることがとても嬉しいですよ」
「……満足げな顔をしてるが山下、お前は洗脳されてる自覚があるんだろう?さっさと目を覚まさないと、優衣ちゃんがこの腐った学校の餌食になるぞ?」
「大丈夫ですよ。先輩ももうすぐ、私たちと同じになれます。私と優衣が抱くこの気持ちが理解できるようになります。あるべき本当の自分に目覚めて、心からこの学校に忠誠を誓えるようになれるんです……さあ先生」
俺の強がりと山下への淡い希望が彼に届くことはなく、憐れむような声音で山下は野田に俺への洗脳を促した。
「それじゃあ西本さん、これで男としてのあなたは死ぬわけだけど、なにか最後に言い残すことはある?」
万事休すか。
「……」
とはいえ、なにも殺されるわけじゃないのだ。任務を果たせなかった責任は、また償う機会もあるだろう。
だから俺は、理事長や野田、そして山下を睨んでこう言った。
「いつか必ず誰かが、お前らの悪事を白日の元に晒すだろうよ……正義の鉄槌が振り下ろされるその日を、俺は楽しみにしている」
言い終わったその瞬間、俺の全身が光に見舞われ、そしてーー
「いつか必ず誰かが、ねぇ」
礼拝堂の静寂を破ったのは野田先生だった。口元を歪ませ、笑いを堪えているかのように見える彼女はとても楽しそうだ。
「でも、その時は"貴女"が私たちを助けてくれるんでしょう?西本雅美さん?」
「ーーはい、もちろんです」
私はその問いかけに即答し、すると彼女はいよいよ笑いを溢れさせた。
「どう?あれだけ憎んでいた私たちの支配下に置かれた気分は?」
そんな自明の問いかけに、私はこう返す。
「はい。本当の意味でこの学校の一員になれて、私は今、とても幸せです」
「そうなの?私たちを潰そうとか考えてたのに、私たちの仲間になれて嬉しいの?」
「先ほどまでの私はあまりに愚かで、この学校の素晴らしさをまるで理解できていませんでした。よろしければ私もこの組織の末端にお加えいただき、かつての汚名を濯ぐべく尽力させていただきたいと思います」
「なら、これまで在籍していた諜報機関を相手にするとしても、貴女は私たちの味方、してくれるわよね?」
からかうような野田先生の口ぶり。けれど私は毅然として本心を答えた。
「はい。私がこれまで培ってきた全てであの諜報機関に対抗してみせます。今の私は"聖立学院高等部1年、西本雅美"ですから」
この学校に潜入捜査で赴いて今日まで至った自分が恥ずかしく情けない。思えばなぜ私は、正しい洗礼を浴びなかったとはいえ目の前の皆様に跪かずにいたのだろう。智香ちゃんはとっくに忠誠を誓い、聖立学院に心身を捧げていたというのに、私ときたら……。
「……?」
「……あら?西本さん?」
……。
……。
……む。
「……す、すみません……やはり、先生方のご命令には、従えません」
「まあ」
心底驚いたような反応を見せる野田に対し、俺は苦鳴を堪えながらこう続けた。
「わた……お、俺はたしかにこの学校の一員にな、なりました……が、俺にはかつて与えられた、大切な任務が、ありますので……」
思考が、乱れる。過去の自分と現在の自分。お互いに争い合うそのどちらが本当の自分なのか、今の俺には判断がつきそうにない。
けれど魂に根付いた正義が、嘘偽りのない男としての24年が、暫定的に聖母様への反抗を選んでいた。
「野田君、きっと1度目の洗礼が中途半端だったために、彼女には免疫のようなものが生成されてしまっていたのだろう」
「そんな……では理事長、雅美ちゃんを正しい道に戻してあげることはもうできないのですか?」
理事長の簡潔な説明に、智香ちゃんが悲しげな顔をした。
「いや、見たところ西本君の精神は不安定な状態だ。以前の自分か今の自分かで揺らいでいる。だからとりわけ大きな違い……その性別、彼が女であるという自覚を強めてやれば、自然と"西本雅美"を受け入れ、同調することができるだろう」
そんなことを言われてしまっては、俺もこう返すほかはない。
「わた…俺は絶対に、女の子にはなりません!必ずこの学校のみんなを、聖母様から救い出してみせますっ!」
俺がそう啖呵を切ると、理事長は平然と頷いてみせた。
「そうだ。君は交換学生に選ばれることで外部との連絡を容易にしようと考えていたんだろう?」
「なっ……!?」
驚いた。まさかこちらの動向が読まれていたとは。
……いや、勘のいい智香ちゃんが向こう側にいるのだ。そのくらいは当然にお見通しでも不思議ではない。
「……だったら、なんだっていうんですか?」
「君にチャンスをあげよう」
「……はい?」
「西本君が交換学生に選ばれたら、君たちの精神状態や身体を元に戻し、さらにこの学校から解放すると約束しよう」
「……もし、選ばれなかったら?」
「その頃には新しい洗礼の準備も整っているだろうとも」
「……」
ここで実力行使に出られてもこちらに勝ち目はない。どうせ現状どう転んでも八方塞がり。
「……」
理事長の言に乗る以外の選択肢は、今の俺にはないだろう。
「交換学生に選ばれるには一段と厳しい講義を経て、全学生の規範となるような素晴らしい女子でいなければならない。君に果たして可能かな?」
「……やってみせますよ。私、この学校で1番素晴らしい女学生になってみせます!」
理事長の売り言葉に乗ってしまったのが、"俺"の敗因だったろう。本当の俺と燻る私とで利害が一致してしまっていたのも、当時の自分の背中を後押ししたかもしれない。
言うまでもなく、聖母様のご加護は理事長に味方していた。
×××
聖母様に2度目の洗礼を頂いてから、私は智香ちゃんや野田先生のサポートもあって一歩一歩着実に女性としての道を歩んでいった。
『"俺"なんて使っては駄目。貴女は女の子なんだから"私"と言いなさい。言葉遣いも気をつけるのよ?』
『西本さんの中にある理想の女性像をなぞりなさい。明確な目標が貴女をより相応しいものに成長させてくれます』
『身嗜みやお洒落はとても大切ですが、この学校の生徒にとっての第一はあくまで"聖立学院"です。資金繰りのために資産家に嫁ぐこともあるでしょう。そんなとき、貴女は学校のためであれば喜んで身も心もその男性に捧げ、そのことを幸せに思わなければなりません』
初歩的な内容から応用に至るまで改めて徹底的な教育を受け、それらをすべて素直に吸収していった結果、いつしか私は学校のみんなと心から打ち解けられるようになった。
朝は智香ちゃんと穏やかな時間を過ごし、学校に着けばクラスのみんなと談笑に興じる。授業では私たちのためを思ってくれる先生が外の学校では学べない大切なことを教えてくれる。放課後は趣味も兼ねて女磨きを怠らない。
いつもみんなが付き合ってくれるから、おかげで自分のちっぽけな理想に囚われない、素敵な女性にまた少し近づけたんじゃないかなって日を追うごとに思えて、それがたまらなく私を幸せにした。
これが私の手に入れた今の居場所。こんなに素敵な毎日を過ごせるだなんて、聖母様には感謝してもしきれない。
交換学生選考の期間も終わりが近づいてきた頃。
「それでは、よろしくお願いいたします」
この時間はきっと私にとってターニングポイントになるだろう。そんな確信に近い感覚が私にはあった。
なぜなら私は今日、初めて男の人にこの身を捧げるのだから。
「お前のせいであやうく前科持ちだったんだぞ?叔父が理事長やってなかったら今ごろどうなってたか」
彼は理事長の甥にあたるそうで、さらになんと以前諜報員だった私が壊滅に一役買った組織の頭領だったらしい。
「あの時の大損、身体で返してもらうからな」
言いながら私の裸体を矯めつ眇めつし、そして伸ばされた彼の手は私の胸を鷲掴みにした。たわわに実った柔らかな乳房はその指先を優しく受け入れ、従順そうに、外圧をそのままに形を歪ませていった。
「……っ」
ぞわり。
それは生理的嫌悪のような感覚で……いや、そんなはずはない。私の身体が男性に弄ばれて歓喜の声を上げないわけがないのだから。私の身体は…この学校の生徒は、そうなるように教育されているのだから。
「……ぁんっ……」
事実乳首はピンと張り出し、先ほどのあれは身体の昂りを象徴したものだったのだと確信を持つに至る。
「やぁっ……あはぁん……」
「……『もはや自分がどこへ向かっているのかも理解できていない彼女に、引導を渡してやれ』とか言ってたが、なるほど。野郎にされるがまま喘ぎよがって……洗脳されきってもいねえのにこのザマじゃあ、お前を庇ったとかいうあいつも報われねえなおい」
お椀に沿うように撫でたり、乳頭を摘んだり、彼のその一挙一動の度に私の脳には甘美な信号が響き渡る。
性実技の授業で自慰を経験した私だけれど、こんな快感は初めてのことだった。
「んぅふっ……智香ちゃんを、ご存知なのですか?」
理性が彼の一言に強く反応した。そして気がつけば私は、情事の最中だというのに彼が口にした私の親友のことを尋ね返していた。
「あ……も、申し訳ございません。差し出がましいことを……」
「くはっ!俺をあそこまで追い込んだ野郎がヘコヘコするその様に免じて許してやるし、質問にも答えてやるよ……あいつはな、俺の嫁に決まった。お前らが過去に俺の会社にやらかした問題の尻拭いをさせようってんで、俺の女になったほうがなにかと都合がよくってな」
なるほど。得心がいった。
「あら、それで智香ちゃんぁっ……今朝は活力が満ち満ちていたのですね。自らが聖法学院のぉっ…次に、その身その心を捧げるっべき殿方にぃ、選ばれることは、私たち女性にとってぇっ……最上の、しあ、ぁせっですから……智香ちゃんを貰っていただいて、あり、がとぅござっ……ッ〜〜!!」
親友の私に黙ってるなんてどうなのって感情はある。まったくもう、今夜は仲の良いみんなと集まって女子会かな。彼との話を吐かせるだけ吐かせてやる。絶対に寝かせてあげないんだから。
「お前にもこれから色々働いてもらうからな。死ぬ気で俺らに従えよ?」
「んっふぅ……かし、こまりました。不肖西本雅美、身命を賭して使命を果たしたく思います」
向こうの手が止まる。今度は私が彼に尽くす番だ。
差し当たって、私は乳房を彼の逞しい胸板に押しつけた。
「まずは、貴方のお身体にご奉仕をしないとですね」
「わかってんじゃねえか。てかお前、本当に自分がどうして聖立側で立派な生徒になんかなろうとしてんのかあやふやになってんだな」
彼の腰に手を回し、抱擁を交わす。手持ち無沙汰になった彼の手は私のお尻を撫でたり揉んだり、淫猥に動いて止まない。
「?私が今日まで邁進してきました理由は、やんっ…交換学生に選ばれるためで、んふぅ……」
「あ?なんだ覚えてんじゃねえか」
「と、当然です。交換学生に選ばれて、他校の優秀な生徒を見繕い、我が校に引き抜く手引きの一助となることでぇっ…聖立学院のお役にゅっ、た、立つことが、私の目的なのですからぁあんっ」
途端、彼は私を一層強く抱き締めた。
私の華奢な身体は彼の男らしい肉体に包まれ、そのことが初めて情事に及ぶ私の一欠片の不安を中和させていった。
なんだろう。心がぽかぽかするこの感じ。この先に進んじゃダメなような、そんな直感を霧散させて、今はただこの人に尽くそうって思えてならない。
覆し得ることのない、絶対的な性別の違い。
私は今、彼に抱かれることに、この身を委ねることにこの上ない幸せを感じている。
「いいねぇ。その尊厳もなにもかも踏み躙られてる感じ。思想が歪みきって、もう本当の自分がわからなくなってる感じ……聖母の洗脳と野田たちの教育の賜物だな」
「……んむっ」
彼の唇が私の唇を塞ぐ。閉じられた唇はしかし一筋に貫かれ、お互いの舌が艶かしく交わりを始める。
(……あ)
太ももに、何かが突きつけられた。
それは太く逞しく、柔らかくも硬い、そして私たち女性の理性を溶かす熱を醸し出していた。
私は太ももでそれを控えめに挟み込み、左右非対称に脚を上下させることで軽く擦り合わせるようにしてみた。
するとそれはむくむくと一層膨張を増し、私の太ももに食いこんでくるまでになる。
「くっ……ただでさえ上物の女体なのによ、元男だけあって俺らの滾らせ方を分かってるってのが最高だなおい」
そんな褒められ方をされると嬉しくって仕方ない。私が男として生きてきたあの無駄だと思えた時間が今、目の前の人を悦ばせることに繋がっているのだと、そんな唯一無二性のある女になれたことが、たまらなく嬉しい。
汗がしとどに長髪を濡らし、けれど肌に張りつくそれらを鬱陶しく感じなくなった頃、そんなことをいちいち感じていられるほど、私に余裕がなくなってきた頃、そのまぐわいも終着点へと向かおうとしていた。
かつて私にも備わっていた一物。屹立し本懐を果たそうとするそれが女である私へと向けられている。今、私にはそれを受け入れる愛液でびっしょりと濡れ切った一筋の溝がある。
この膣であれを受け入れることこそ私の役割で、私の望みなのだから、自然、私は股間を前方へと突き出し器を彼へと捧げる形で、彼の持つそれにあてがった。
「私の初めて、頂いてくれますか……?」
その媚びるような甘ったるい女声は、性実技の授業ではついぞ出せずにいたものだった。私の心に燻る何かが今までそれを邪魔し続けていたのだ。
けれど今、本番を通じて自分のことを心の底から"男性に尽くすべき女である"と思えたのだろう。もはやそこにはかつての自分が残した未練や屈託なんてない。今ここにいる女は、私は、聖立学院に身も心も捧げた女学生、西本雅美なんだ。その教えに従って男性に従順な女でいることこそが、私にとって至上の悦びなんだ。
彼の逞しい肉棒が私の膣内を蹂躙していく。それが擦れる度、突き込まれる度、私は経験したことのない悦楽に思考を押し流され、ただ女としての本能に従って、あるいは生理的な反応のままに、その男根を逃すまいと、搾り取らんとばかりに膣を引き締め、一層彼との繋がりを強固なものへとしていく。
そしてそれが結果として彼に、そして私に苦鳴のような嬌声を漏らさせる。けれど淫猥に響く喘ぎ声と情事の水音とが、私の意識を割くことはなかった。
ひたすらに押し寄せる滂沱の喜悦が、産声を上げた女としての快楽が、私にそんな暇を与えるはずもなかったからだ。
ただ腰を振るただそれだけで、なぜこれほどまでに満たされるのだろう。
(……彼が男性で、私が女だから……)
繋がりを保ちながら唇を交わしたり、抱き締めあったりして、私は改めてこう思うのだった。
(女になれてよかった……聖母様、私、本当の自分を見つけることができました)
(私、これから精一杯頑張ります。この素晴らしい学校を守るために女として心血を注ぐこと、誓わせてください)
(……もっともっと素敵な女性になって、必ず聖母様が望む未来を、この学院の平和を、掴み取ってみせますっ!!)
「っ〜〜!!!…………んぅ、ふぅっ……♡」
私の中は男性の供給物で満たされ、子宮の疼きは新たな生命の誕生を予感させた。
無論、それをどうするかは私が決めることではない。
私はただ従うだけだ。私は、聖立学院で学びを受ける女生徒なのだから。
×××
諜報員として任務をこなしていく以上、死とは常に隣り合わせだ。
私がこの組織の長官に任命され早10年。数え切れないほど多くの仲間を失い、ただそんな彼らの意志を引き継がんとここまで走り抜いてきた。
だから私は無き戦友たちの顔と名前を、一度たりとも忘れたことはない。
「身体検査の結果、彼女らは異常なく女性です。指紋や遺伝子の一致もありませんでした」
「……他人の空似、か」
西本雅史と山下智樹。かつて共に戦った2人の男を思い浮かべる。彼らはとある任務の最中、予定していた潜入任務とは別の事件に巻き込まれ、消息を絶った。
最後の通信では当初の潜入先がシロだったとの情報を残してくれた彼らは、本当に死ぬ間際まで我々のために尽力してくれていたのだろう。
先日、そんな優秀だった2人の面影がちらつく志願者が我が組織に現れた。ただ、2人とも女性だった。
(……いや、故あって素性を明かさず以前のように女装でもしている可能性はないか?)
そんな発想に至った私の脳内は、なかなかにお花畑だったろう。未練がましく意味のない検査を重ね、そしてあえなく撃沈することとなった。
「私の目も、衰えたものだな……」
「長官?」
「いや、なんでもない。では入ってきてもらおう」
「はい。それではお二方、入室してください」
大学と卒業したばかりだというのに我が組織の入隊試験で満点近くを叩き出す異才。このふたりが加われば、我々は平和にまた一歩近づけるだろう。
きっとそれを、あのふたりも望んでいるはずだ。
黒のジャケットにタイトスカート、ストッキングからパンプスと、一般的なリクルートスーツを着こなすふたり。しかしその端正な顔と女性であれば誰もが羨むであろうスタイルの良さが相まって、薄化粧にも関わらず見る者を惹きつける美貌のようなものがあった。
姿勢正しく、そして一挙手一投足が嫋やかで気品に満ちている。これほど第一印象で好感度を稼げる人間もそうはいないだろう。
そして彼女らは柔和な微笑みを浮かべ、耳心地の良い澄んだソプラノ声で私にこう挨拶したのだ。
「ーーー」